ゼミ通ヒーローズ Vol.06
門瀬菫と「ハッカソンという名のゲームについて語る」の巻
今回のゼミ通ヒーローズは村上ゼミ新4年生の門瀬菫さんをピックアップ。
ゲーム制作授業のLA(ラーニング・アシスタント)を務めて1年生の指導も行なってきたゲームゼミの元気印。先日関西のゲーム系ゼミを持つ大学との合同ハッカソンを実施し、そこで得た気づきや学びを、ゲーム的発想によって掘り下げていこうと思います。
ViViVit主催のUI展にて。作品を出品する門瀬さん。
村上 一年生の頃、毎週ゲームの企画書を作って持ってきたりして、ものすごくモチベーションが高い学生だなと思って驚いたけど、そもそもゲームを作りたいという気持ちはどこからきたの?
門瀬 昔からプレゼント選びが好きだったんですけど、それって相手がどんな反応をするかが楽しみだからするものじゃないですか。自分の好きなものをあげるんじゃなくて、相手に何をあげたら一番喜んでくれるかなって考えるのが結構好きだったので、その感覚がゲーム制作の授業で引き出されたのかなと思いますね。
村上 授業のどのあたりで引き出された?
門瀬 一番よく覚えてるのは、先生が「ゲームのキャラクターは記号である」って言った時ですね。この言葉が印象深くて、今までビジュアルとストーリーが面白いからゲームは面白いんだって思ってたんですけど、「あ、違うんだ!」って、ちゃんと面白い仕組みがあるからその上にキャラクターが乗ってるんだって思いました。それで「人が面白いと感じるものを作りたいな」と。
村上 キャラクターデザインという名の学科に入ってきたのに、いきなり「キャラクターは記号だ」って言われて、「は?」ってなったクチだね。
門瀬 そうです。最初ここはゆるキャラとかご当地キャラとかを描く学科なのかと思ってましたもん。それで入学したら全然絵を描かせてもらえない(笑)。でも知らないことを知るっていうのが単純に楽しかったですね。ゲームっていう身近なものなのに、全く違う視点にさせられるし、驚きがたくさんあって面白いです。
村上 全く未知の領域を学ぶんじゃなくて、ゲームっていうあまりにも身近なものの固定概念が覆されるわけだから、衝撃はそこそこ大きいかもね。
門瀬 「面白い」っていう感覚って、今までは素直に「面白い」だけだったんですけど、「なんで面白いのか」って考えたことがなかったんですよ。ゲームって面白くて当たり前だと思ってたので。でもその当たり前を作るためにこんなに大変な思いをするんだって思って、もっと楽しくなってズブズブとハマっていきました。ゲームプランナーは面白いぞっていう村上先生の洗脳がかなり効いてます。あとはグループワークで「脱出ゲーム」を作るって聞いてたので、ここにも魅力を感じてました。
村上 グループワークっていう言葉に嫌悪感を抱く人が多いかと思ってたんだけど、あんなに楽しんでやると思わなくてこっちも驚いたね。
門瀬 グループワークじゃないと自己顕示欲が満たされないんですよ。
村上 グループワークの話が出たので、先日他大学と合同で行われた「ハッカソン」の話を聞いていこうかな。
門瀬 合同でハッカソンをやるのはもう二回目ですね。
村上 そうだね。まずハッカソンの概要について聞かせてくれる?
門瀬 一般論でいえば、エンジニアが集まって、一日という短い時間の中で新しい技術を生み出すっていうものですよね。
村上 エンジニアに限らず、一般の主婦とか学生がそこに加わって、短時間でアイデアをひねり出すようなこともあるね。で、今回は他大学と学生同士だけで行なったと。
門瀬 そうですね。Connectという関西の学生ゲームコンソーシアムがあって、まずは学生同士で何かをやろうってなって、立命館大学のゲームゼミの方から「学生対抗ハッカソンをやろう」とお誘いを受けまして。で、一か所に集まるのは難しいからSkypeを使って互いの現場の緊張感が伝わるようにしてやりました。対抗と言いながら勝敗を決めるようなものではなく創作意欲を刺激し合うような形になってます。今回は立命館大学、和歌山大学、そして京都造形大でネットを通じて実施しました。
村上 そこで作った作品は?
門瀬 京都造形大は人数が多かったので3チームに分けたんですけど、その中で私たちのチームは「ただいまらそん」というアナログゲームを作りました。ハッカソンというからには本来デジタルゲームを作るべきなんですけど、同じチームにプログラミングが出来る人がいなかったので…。今回与えられたお題が「かえる」ということで「蛙、帰る、変える、買える」と色々解釈できるようにひらがなで提示されたんですけど、そこで私たちは「家に帰る」というキーワードから、「一番早く帰宅できた人が勝ち」というだけのルールで、コマを進めたりライバルの邪魔をしたり、また思わぬ出来事が起こったり、というのを楽しみながら場を盛り上げていくゲームを考えました。
村上 見た目は「どこにでも動けるすごろく」みたいになってたね。
門瀬 そうですね。このゲームの面白い点は、「進む」とか「邪魔をする」といったイベントカードを盤面に配置していくんですけど、伏せた状態で配置されてるので、それが良いカードなのか悪いカードなのかを予測しながら進めるドキドキ感でした。
大詰めを迎えカオスと化したハッカソンでの制作現場。
村上 去年のハッカソンで作ったゲーム「プレゼント大作戦」と基本構造が似てるのかな。
門瀬 そう、同じなんです。「プレゼント大作戦」の時は、お題が「あげる」で、「プレゼントをあげる」っていうテーマにしました。要は1点から5点までの点数がついたプレゼントカードがあって、たくさん集めて合計点の高かった人が勝ち、という単純なルールです。毎ターンごとに手元のプレゼントカードを他人にあげたり、自分のものにすることもできるんです。そしてそのプレゼントには宝石みたいな「プラスの物」と、石ころみたいな「マイナスの物」が混在してるんですね。そのプレゼントを表を向けて置いたり伏せて置いたりして、果たして自分の手元に集まったプレゼントの点数は何点なんだろう?という遊び方をします。
村上 さっき話してた「基本構造が似てる」部分って、その「プレゼント大作戦」と今回の「ただいまらそん」は両方とも自分の枠があって、まずはターンごとにアイテムを配置していくという基本ルーチンがあるということ。そのアイテムにはプラスのもの、つまり進むものとマイナスのもの、戻るものが混在していて、それがどちらか分からないというドキドキが得られるってことね。
門瀬 それがランダムではなくてプレイヤーが任意に仕掛けるので、それを読み解くというのが共通する面白さですね。アイテムの中身を知ることもできるんですけど、それによって貴重な1ターンを消費してしまうという駆け引きもあります。危険を冒して近道をするか、ターンを消費してでも安全に遠回りをするかというトレードオフがポイントです。
村上 途中までは淡々とアイテムを配置していくという、言い方悪いけど作業的なルーチンが続くよね。でも途中から徐々に邪魔の要素が加わってきて、それまでコツコツと蓄積してきた要素が一気にひっくり返される。大富豪でいうところの革命にあたる要素だと思うけど、常に革命が起こることを予測しながら進めなければいけない緊張感があるね。
門瀬 相手の行動の裏の裏まで読まなきゃいけないので、相手の表情を読み取る力も求められますね。
村上 対戦相手によっても大きく戦況が変わるような奥の深いゲームになってるけど、あれをゼロから考えてルールを固めて、絵を描いてレベルデザインを含めてたったの8時間でゲームとして遊べる形に完成させるというあの凄まじい集中力(笑)!
門瀬 確かにものすごい現場になってましたね(笑)。
完成作品をSkypeで他大学にプレゼンする門瀬さん
村上 その場で組んだメンバーだからほぼ初対面同士でもあるよね。しかもその場でお題が発表されるから何も準備ができない状態で。それでどうやってチームをまとめて、全員のモチベーションを保てたのかな。グループワークという名のゲーム性について考えてみようか。
門瀬 ハッカソンって、不思議なことに途中で疲れないんですよ。朝から晩までアドレナリンがものすごく出てる状態なのでただただ楽しくて。でも終わった瞬間にとんでもない疲れが一気にきますね。
村上 大学の授業って80分とか90分とかあって、30分間同じリズムの語り口調で講義を受けたらかなり辛いよね。「ゼルダの伝説」で遊ぶときは同じ姿勢を保ったまま3〜4時間周りが見えないくらい画面に食い入る状態になるけど、ハッカソンもこれに近いのかな。てことはハッカソンってゲームなんじゃないかな。なんであんなにのめり込むんだろうね?
門瀬 時間制限がある制作って、かなり追い詰められるけど楽しいんですよね。例えばスーパーマリオで後ろから壁が迫ってくるようなステージがあるじゃないですか。あれに対してプレイヤーってあまり不快感を覚えなくて逆に面白い要素として捉えますけど、これに近いんですかね。
村上 強制スクロールのゲームと同じ構造でありながら強制感がない?まあ、実際に死ぬわけじゃないしね。
門瀬 後ろから迫ってくるから逃げるけど、でもそれが面白いと感じられるゲームデザインになってるじゃないですか。死にたくないから時間を短縮するためにどのルートをとるかっていうのを瞬間的に判断しながら動きますよね。瞬間的にすごいアドレナリンが出るので、その感覚が楽しい追い詰められ感になって、ハッカソンにも同じことが言えるのかなと思います。短い時間でやるので、とにかく計画を立てるんですよ。私がグループワークをするときに意識してるのは、「やらされる」っていう強制感を与えないようにする工夫です。
村上 どうやって?
門瀬 「一人ずつ案を出していこうか」というのもアリなんですけど、今回だったら「かえる」っていうところから一人ずつアイデアを出させるよりは、一つの案を紙の真ん中に書いて、それを外側に広げていくやり方の方が良いんじゃないかと思って。
「プレゼント大作戦」の時だったら、プレゼントの中身が見えてる方がもらった時に嬉しいのか、見えない方が良いのか、そういう疑問を一つ投げかけて、それに対してグループメンバーがその時の感情とか状況についてディスカッションしてどんどんイメージを広げていったんです。だから一人の話から広げる形の方が、議論じゃなくて対話をしてる感じで盛り上がっていくので、それに伴って皆のテンションも上がっていくんですよね。一旦テンションが上がるとアイデアが連鎖反応を起こしていくんです。それが少し引いてきたと思ったら、その段階でのアイデアを一旦まとめて、そこから次のステップの対話に入っていくということを繰り返して企画を立てていきました。
村上 それによって普段あまり話さない人も話すようになる?
門瀬 さすがに初対面となると初めはなかなか出ないです。私のチームは5人で、1年生1人、2年生3人、そして3年生の私を入れて5人です。最初は冷え切った状態から始まりましたね。
村上 でも最終的にはあれだけヒートアップしてたね。
門瀬 いじられたら面白いんだけど自分から一歩を踏み出せない人っていうのがいるので、そういう人を最初に見つけていじるんです。その子が話し始めると周りに反響してどんどん話すようになってくるんですよ。身内みたいな空気で二人で盛り上がるっていうのは絶対ダメなんですけど、まず私が2年生に冗談を言って笑わせたら、他の2年生が絡んできて、そうなると話したことがない1年生も入り込める空気ができるんですね。そこで「どう思う?」って話を振ると、それだけでしっかり答えが返ってきます。やっぱりグループワークでは空気ってすごく大事だなって思いますね。発想力が凄い人っていうのもいるのかも知れないですけど、グループワークするときって、結局全員が育ってきた環境が違うので価値観も違うっていうのが見えてそれが面白いじゃないですか。だから全員が話せるような空気作りができたら絶対にどこからか面白いアイデアが出てくると思います。
村上 チームリーダーになったからそれをしなきゃいけないと思った?
門瀬 それはないです。誰かのため、とかいう綺麗な話ではなく、単に私がそうじゃないと生きにくいからです。強制して「お前、アイデア出せよ」っていうのと、アイスブレイクとして「今からマジカルバナナやろう!」て言うんだったら出てくる案は同じだったとしても捉え方が変わると思うんですよ。マジカルバナナっていうコンテンツを使う事で、楽しんでゲームに参加してるっていう状態でアイデアを広げていけるっていうか。ゲームとかゲーミフィケーションの持つあそびの力によるものが大きいと思いますね。「ゲームって楽しい」っていう謎の固定概念がありますけど。親が宿題をやれと言っても子供は動かないって、よく先生言ってるじゃないですか。
村上 なんだか村上イズムが浸透してきたな(笑)。
門瀬 ですね。単純なことなんですけど、何点取ったらご褒美あげるって言われたら子供ってすごく食いつくと思うんですよ。でもそれって、つまらない事をやらされてるっていう強制感を感じさせないように親が必死で隠して餌で釣ってるだけなんですよね。でも人間って嬉しい形で餌を置かれると食いつきたくなるじゃないですか。逆に背中を押されるとやる気がなくなるんですよね。なのでグループワークでゲームの要素を使うってなったときに、とにかく「聴く」っていうのが一番大事なんだと思います。聴いて話を引き出していくっていうか、あー、何言ってるんだかワケわからなくなってきました(笑)。
村上 要するに聞き手に傾聴の姿勢があるから、誰かがアクションを起こしたときにすぐリアクションがとれて、それがゲームていうところの「即時フィードバック」や「称賛演出」につながって、話し手は「聞いていただけた」っていう喜びが得られるから頑張ろうという気になる。そこで褒められた日にはもう舞い上がっちゃうよね。ってことね。
門瀬 そう、それ!それ言いたかったんです(笑)!
村上 で、さっきの話で一つ気になったんだけど、「前に餌を置かれると燃える」でも「背中を押されると嫌がる」って話。脱出ゲームを作る時は実はこれ逆なんだよね。脱出した先に何があるかはどうでもよくて、後ろから「時間」というものが迫ってきてるから、そのネガティブな要素がモチベーションにつながって脱出しようとする。つまり中が嫌だから外に出る。でも今の話だと、目の前に餌があるからそこに行きたくなる。この時に発せられるエネルギーって全然違うように感じるね。
門瀬 脱出ゲームの場合は、ゲームである以上「脱出しなければならない」っていう使命感はあるんですけど、答えを自分で発見した感覚があるから面白いんですかね。
村上 結局ゲームだから答えは用意されていて、自分で解決したかのように演出されてるだけなんだけどね。さっきの、餌で子供のやる気にさせる親と同じで。
門瀬 そうなんです。作り手の掌で転がされてるんです。でも転がされてるって感じないように設計されてるからあれは面白いんだと思います。あたかも自分が凄いことを思いついたって錯覚させられるんですよ。
村上 昔から、「ドラゴンクエスト」は自由度が高くて自分でストーリーを作ってるように感じて楽しいのに対して、他のRPGは一本道のストーリーをなぞるだけだからゲームとは言えないよね、みたいに批判された時代があったけど。先日もゼミ通ヒーローズの中井涼の対談の中で「パワポを使った時点で授業は一方通行になるから聞く気をなくす」みたいなことを言われて…。
門瀬 それと同じだと思います。自己統制感があるからゲームが面白くなるんだと思います。
村上 答えはあるのに自分で発見したように見せる演出がゲームを面白くする一方で、ハッカソンの場合はそれこそ答えはない。だから面白いのかな。
門瀬 確かに何でもアリなんですけど、そこに時間制限があるからそれがゲーム性となってハッカソンっていうイベントが面白くなってるのかなって思います。やっぱり何かを捻り出さなきゃいけないんですよ。「出来ませんでした」はダメなんで。
村上 これがプロの開発現場なら「出来ませんでした」はリアルに致命傷になるけど、ハッカソンの場合は出来なくても何の罰則もない。なのにどうして「出来ませんでした、はダメ」になると思う?
門瀬 上からの強制力ではなくて、クリエーターとしての自分との闘いなんですかね。チーム対抗って言ってますけど実はそこはどうでもよくて、時間内にゲームを完成させるっていうゲームに打ち勝つことができるかっていうことなんだと思います。
村上 やっぱりゲームなんだ(笑)。ルールは「8時間でゲームを完成させる」なんだけど、それが「作用」なのだとしたら「反作用」って何?
門瀬 テンションですかね。私が高いテンションを保てても周りがついてこれるかっていう問題があります。ハッカソンそのものがゲームという捉え方ができるって言いましたけど、私にとっては、ハッカソンの中でのグループワークがゲーム作りなんですよ。えーと、ややこしいですね。ゲームを作るっていうんじゃなくて、グループワークという名のゲームを作って私がグループメンバーを躍らせるっていうシミュレーションゲームを楽しんでるって感じなんです。
村上 ややこしいけどよくわかる。キミも成長したな(笑)。
門瀬 とにかくみんなを気持ち良くさせるんですよ。気付かないうちにちゃんとやれるようにレールを敷くっていう感覚ですね。そもそもゲームって義務がないからつまんないと思ったら途中でやめるじゃないですか。ハッカソンもそれと同じだと思ってるんですけど、それは私が許せないので。でも私一人ではゲームは作れないから、皆を動かすんです。義務感はないけど途中離脱したくないような状況づくりをするというゲームですね。
村上 スタッフは駒なんだ(笑)。
門瀬 いや、…言い方悪いですけど、…えーと、そうです(笑)!
村上 マイルドな言い方すると、サッカー選手と監督みたいな感じね。ハッカソンの中で二重にゲームが行なわれているって感じか。
門瀬 グループワークで話し合いをしてる時に私が何か面白いアイデアを思い付いたとして、それをぶつけるのってあまり得意じゃないんです。なので皆が分からないように私の意見に近づくように誘導していくんですよ。これが楽しいから私はグループワークが好きなんです。リーダーっていうと、RPGなら万能で皆を導く勇者タイプのイメージがあるんですけど、私はそうではなくて、列の一番後ろにいるんですけど道は変えさせねーぞと(笑)。でもそれはそれでwin winだと思うんですよね。とにかく気持ちよく冒険はしてほしいんです。それは私があまり発想が得意じゃないからなんだと思います。
村上 後輩たちからすると門瀬の存在って「発想力豊かな先輩」って位置付けられてるよね。
門瀬 いや、それは違いますね。今回のハッカソンでは私はほとんど意見は言わなかったですし。
村上 でもそれって良いアクティブラーニングの特徴でもあるんだけど、「教え込む」じゃなくて「学びたくなる状況を演出する」ができたってことじゃない?
門瀬 一歩引いて全体を見る方が面白いんですよね。芸大に入学してよく分かりました。元々兄(キャラデ卒)って私にとって絶対的な存在で、なんというか天才肌なんですよね。
それに対して私は凡人なんですよ。それは私の思い込みじゃなくて、自分を客観的に分析した結果で。なので発想力があるっていうよりは、そう見せる「フリ」がうまいんだと思います。周りの人のエネルギーを吸い取って、発想力という名の殻を作ってるんですよ。
村上 やっぱり演出って大事だね。
門瀬 そうですね。人の力を使ってそれを増幅させて、発想力が高いキャラのように見せるんです。
村上 極真空手よりも合気道に近い感じかな。相手に攻撃させて受けて倒す、みたいな。
門瀬 まさにそんな感じです(笑)。で、今回のハッカソンで一つすごく嬉しかったことがあるんですよ。同じチームにいた1年生の後輩が、別のチームの子に「うちのチームはどんどん進んでいってすごく楽しいよ」って伝えてたらしいんですけど、それが一番嬉しかったですね。
村上 それは門瀬個人が褒められたということじゃなくて、チーム全体が評価されたってこと?
門瀬 いや、ただ単に私の思い通りにいったっていう感覚です。あ、楽しんでもらえたんだ!っていうことが嬉しかったです。
村上 ゲームってプレゼントだと思っていて、人の驚きをデザインする仕事だから、思惑通りにいくと嬉しいよね。
門瀬 落とし穴を掘って、そこに誰かが落ちた瞬間の気持ち良さですかね。落とし穴が見えないように周りをデコレーションしていって、気をそらして落とすみたいな。
村上 授業の頭でいつも言ってるけど、ゲームを作る人って、いたずら好きとか、良い意味で性格が悪い人が向いてるかなって。でも、驚かすっていう欲求が強すぎてそれが仇になることもあるね。自分が外で見てすごく感動した映画があって、これを嫁さんにも見せたいからあとでDVD買って一緒に観ようと思ったことがあって。同じ場面で驚いて、同じ場面で感動して泣くっていうことを共有したいんだけど、見せ場が来て、嫁さんの反応をチラっと見たら映画観ずにめっちゃスマホ触ってたりして、いやいや、ここ!ここっ!!てなるよね。この喜びを共有できない悲しさよ。
門瀬 めっちゃわかります。でもそれが面白くないですか?
村上 やだ。
門瀬 この人は全然違うんだ!って分かったらそれが新しい発見になるし。もちろんその瞬間は否定されたみたいで悲しくはなりますけどね。
村上 いや、だってさ、この映画を見せるためにだよ、時間を調整して、御膳立てして、テレビの前まで誘導して、さあ見るぞって時によ、スマホかよ、ツイッターかよ、てなるよね。いや分かってるよ、どうせ俺の演出力不足ですよ。
門瀬 大人げないです。
村上 でも不思議な事に、自分が開発して商品化されたゲームがネットで叩かれても全然平気なんだね。無償でやるか有償でやるかの違いなのかな。無償のものってそれなりのテンションで準備するでしょ。見返りがないから愛情で勝負っていうか。でも商品開発の場合、ネットで悪口を書く人って「ちゃんとお金を払って買ってくれてんじゃん!」て思う。しかもエンディングまで見た上で悪口言ってるから、こちらとしてはありがたやありがたやってなる。俺、構ってちゃんだから悪口言われると燃える。
門瀬 (爆笑)
村上 授業中に学生に寝られたら少しヘコむかな(苦笑)。自分が感動して体得した内容を学生のみんなにも共有したいっていう気持ちで授業やってるから、「よくも寝やがったな」ていう怒りではなくて、嫁のスマホ状態で「この喜びを一緒に味わえないのかぁっ!」って寂しくなる(苦笑)。帰宅したらその日の晩は膝抱えて過ごす(笑)。
門瀬 …。
村上 さあ、もう何の話だかワケがわからなくなってきたね。今回はハッカソンを通して、人の気持ちを誘導するデザインというか、そのデザインそのものが実はゲームであるという話を門瀬さんにしていただきました。では今日はありがとうございました。
門瀬 はい、ありがとうございました。